2005.5.5
UEFA Champions League04/05 semi final 2nd leg
Liverpool vs Chelsea

アンフィールドのサポーター席“ザ・コップ”からおなじみの
“
YOU'LL NEVER WALK ALONE”の大合唱が聴こえてくる。
この日ばかりはそれが“祈り”にも似た熱を帯びているような気がする。
決勝進出まであと1試合。
1985年、忌わしい“ヘイゼルの悲劇”以来果たせなかった宿願。
長き苦難の時期を経て再び欧州の頂点を目前にした想い。
ジョゼ=モウリーニョ率いるチェルシーにとって
雌雄が決する2nd Legの会場がリヴァプール・ホームだったことは
やはり不運だったに違いない。
スティーヴン・ジェラード、そしてジェイミー・キャラガー。
リヴァプールのラッズ(悪ガキ)あがりの2人はまさに
ゴール裏に詰め掛けた熱きサポーター達の代表としてピッチに立っていた。
特にジェラード。
デビュー当時のミニラみたいだった
やんちゃ坊主な風貌は跡形も無く消え、
頬の線もシャープに引き締まり精悍な面構え。
すっかりチームと街の期待を一身に受ける主将の顔になっている。
イングランドリーグでは、どこか兄弟スポーツの
ラグビーを連想させるプレーが観られることがあるけど
ジェラードの豪快なタテへの“突進”やパスは
なんだかラグビーのバックスみたいだと思う。
サイドに位置すればその突進に加え、
矢のような正確かつ高速なクロスを放つ。
センターではタイトな守備からボールを奪取しては
即座にスルーパスやサイドの選手を走らせるフィード。
おまけに強烈なミドルシュートも備えている。
彼が生み出すダイナミズム。
2002W杯でイングランドの最大の損失は
ジェラードを欠いていたことだったと今でも思う。
例えばベッカムとどちらがより戦力として重要かと問われれば
ベッカムが主将の重責にある点を考慮した上でも
やはり、予選でドイツをたたきのめした立役者、
若きジェラードだったろう。
そのジェラードが中盤の前めでプレーしている。
前半開始早々リーセからの速いグラウンダーのパスをコントロール。
ダイレクトで右足アウトで引っ掛けるようにして
ラインの裏へロブパスを放った。
バロシュが競ってボールがこぼれる。
最後はルイス・ガルシアがきわどい先制点を「蹴り込んだ」。
確かに判定は微妙だった、と思う。
だがその時にはクリアしたガラスをはじめ
チェルシー側の抗議は特になかったように見えた。
モウリーニョも1点は必ず奪える、と踏んだのではなかろうか。
そうすれば、同点のまま後は
テリーとリカルド・カルバーリョを中心とした
固い守備で逃げ切れると。
イングランドリーグの「美風」のせいもあったろう。
激しいタックルを受けようがファールをアピールする暇が
あったら次のプレーに向かう姿勢。
プレイ・オンの促し。
誰が決めたわけでもなく長々と文句をつける暇があったら
ゲームを継続しようとする意思が自然と双方に醸成されるのだ。
今回はそんなイングランド対決だったから。
他のリーグと比べてよいわるいの問題では決してない。
サッカー文化の相違だと思う。
残り時間を考えれば、守りに入ったリヴァプールの防波堤が
決壊する可能性の方が高いと誰もが考えたろう。
しかしリヴァプールの守備は想像以上にタイトだった。
アグレッシブな姿勢は決して崩さず、攻撃の機会を終始狙っている。
このまま膠着状態が続くかと思われた後半
ようやくモウリーニョはロッベンを投入して勝負に出た。
疑いなく、ラスト20分の試合の白熱は
この若きオランダ人の個人能力がもたらしたものだった。
主戦場左サイドでは危険なドリブルでもって、
2人の守備者を混乱させつつクロスを試みる。
中央に入っては鋭利なパス、更にはワンツーを受けに猛然とダッシュ、
はたまたあわや、というきわどいシュートを放つ。
もう、チェルシーのボールは殆どこの20才そこそこの若者に集まるのだ。
それがアイデアも豊富にことごとく相手の急所を突く。
異例のロスタイム6分。
リヴァプールの守りは頑強に耐えていた。
キャラガーがあわや、というボールをかっさらって危険地帯を脱し
大きくピッチ外へ蹴り出した。クリア。
プレーの継続性を重視するイングランドでは
あまり観られない光景だった。
そして、タイムアップ。
リヴァプールがチェルシーの終盤の猛攻をしのぎ切った…。
チェルシーに肩入れして観てたとしたら、もしかしたら
アクシデントのような1点だけの守備的でつまらないゲームだったろうか?
そんなことはない、と思う。
プレミアを勝ち取った故のモチベーション低下もなく
チェルシーはCL制覇を本気で狙っていた。
だから試合終了後、涙にくれる選手の姿があった。
そしてモウリーニョの試合後の表情には
無念の想いと共に一種の晴れがましさが漂っていた気がした。
持てる手を全て駆使して、全力でプレーして
しかし敗れた。
かたやジェラードの笑顔も印象的だった。
終盤本来のセンターに位置を下げた彼を筆頭に
リヴァプールの面々、必死に身体を張ってプレーしていたのだから。
プレミア対決らしい爽快さが後に残った大一番だった。
リカルド・カルバーリョの読み、
ルイス・ガルシアやチアゴのボールさばき…ラテンの芳香が
ともすれば直線的で殺伐としがちなゲームの彩りを
豊かにしてくれていたことを記しておきたい。
いちおうは欧州のビッグクラブのひとつに
数えられるけれども、MAN.UTDには大きく水をあけられ
どこか斜陽都市のチームの悲哀を感じさせるリヴァプール。
だが今やそこに暮らす人々に歓喜を与えている。
そういえば街の仇敵エヴァートンの方もすこぶる調子いい。
これは地元サッカーチームによる街の再興の物語たりえるだろうか。
もしもファイナルであのミランを破るような事態になったら…
リヴァプールの街の熱狂の程は想像に難く無い。
Match deta
Liverpool: GK Dudek, DF Finnan, Carragher, Hyypia, Traore, MF Hamann (Kewell 72), Biscan, Luis Garcia (Nunez 84), Riise, Gerrard, FW Baros (Cisse 59).
Subs Not Used: Carson, Smicer, Warnock, Welsh.
Booked: Baros.
Goals: Luis Garcia 4.
Chelsea: GK Cech, DF Geremi (Huth 76), Ricardo Carvalho, Terry, Gallas, MF Tiago (Kezman 68), Makelele, Lampard, Cole (Robben 68), FW Drogba, Gudjohnsen.
Subs Not Used: Cudicini, Johnson, Forssell, Nuno Morais. Agg (1-0)
Att: 42,529.
Ref: Lubos Michel (Slovakia).
Liverpool FC 公式サイト:http://www.liverpoolfc.tv/